名田 正敏先生より
●私の原点
二十九歳で大阪に職を求めてやってまいりました。倉庫業の作業員を経てホテル業界に身を転じたのは、三十四歳でした。他の同年代のホテルマンと比べて十六年も遅れていましたので、格差が大きく慣れるまで相当悩みました。先輩から「人々との関わりが大事な仕事なので地道に努力してみてはどうかね」と諭されました。また、「あのことをさせたら、あの人の右に出るものはいないという存在になりなさい」という祖父の言葉を思い出しながら、顧客二千組(8千名)の名前と車種を憶えました。
●企業経営
企業というものは、その企業の理想を一人でも多くの人々が共有することによって、それが大きな力になってくると心から思います。私の今までの経験から社会を見てみますと、あまりにも金銭感覚が強すぎて、滅んでいった企業や個人のすごい数をみております。
信頼というものを一つづつ積み重ねながら誠実に営業している企業は、先々までも栄えて事業規模も拡大させています。しかしながら、悲しいことですが、今の世相からみますと、ほとんどの企業が営業オンリーで、かえって取引先との間でギスギスした関係になっています。そして、成績を落とされている企業が本当に多くあることも事実です。
●ホテル経営
昔の商人の言葉に「損して得取れ」という言葉がありますが、この心情には、ちょっとほど遠いじゃないかなあーという風な思いをいたしておりました。ホテルでも例外ではありません。不況と共に客層が減少して今、本当にあえいでいます。今日ユニバーサルスタジオジャパンができてやっと宿泊関係も好転していますが、料飲関係は完全に冷えきっております。企業そのものがほとんど交際費を出さなくなっております。そのシワ寄せがホテルにきております。
昔のホテルはひとりひとりが皆専門職で、三か国語も話せる人がいたし、それぞれの人が技術を持っていました。そういう人たちがひとりひとりの顧客を持っていました。その方たちの集まりですから顧客がしっかりしていますので、余り好不況というのに影響されなかったのです。
ところが今はホテルマンそのものが、非常にサラリーマン化して参りまして、お客様の心に食い込むだけの力がなくなりました。ですから、経営者は売上を上げたいという一心で頻繁に企画ものを出してくる。そういうことが度重なってきますとやはりある種の魅力を添えるために割引をします。それが重なってまいりますと、当然のことながらコストに影響してきますから、少し商品を落とさざるを得なくなってきます。
そうしますとそこにずっと顧客としていたお客様が、敏感に感じとって、ひとり去り、ふたり去りいなくなっていきます。とりわけレストランの顧客だった人は町の中の老舗レストランに移ってしまったら、もう二度とそのホテルに帰ってくることはありません。本当に恐ろしいことです。そしてホテル業界そのものも困難な状況を自分自身で招いているのではないかという思いがしてなりません。
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